我が国には「断熱」なる言葉がなかった。と言うのはオーバーかもしれませんが、誰も断熱を考えた建物を作ってきませんでした。亜熱帯から亜寒帯まで網羅した、世界的にも珍しい温暖な国だからともいえます。ですから、こんな暑さと思えばそのように暮らし、そんな寒さと思えばそのように暮らしてきました。
日本の家屋はもともと、夏の暑さだけを考えて作られ、風通しの良い作りで、断熱とか、結露など無縁の建物でした。一般の家庭に冷房器が普及し始めたのは、昭和三十九年の東京オリンピック前後で、アメリカ製のウインドタイプがボツボツ入ってきました。都市の郊外に建売が猛烈に出来て、いくら作っても追いつかないほど売れました。
当時は石膏ボードはなく、いきおい「家」とは名ばかりで、ベニヤを張り付けて「壁」と称しました。土壁には、多少の調湿性能や断熱性はあったのですが、それがベニヤ一枚では代用にはなりません。しかし、そんな贅沢は言っていられない。ともかく屋根と床があれば「家」として売れました。 真夏になればどのようにしても、寝ることの出来ない暑さですから、飯を減らしてでもクーラーをローンで買うしかありませんでした。
「家」はついに元に戻らず、現在の断熱も何もないボード一枚を「壁」としても、誰も疑わなくなりました。
断熱材と室温
体感温度の十九度とは、春の花見の前後に快適な時期があり、秋にもあります。その時の温度が十九度前後、湿度が四十から六十五パーセントの事が多いです。室温を十九度にするには、Aの断熱が不十分な場合は、壁の温度よりも十度高い温風を与えなければなりません。
Bは、壁の温度が十八度、この壁の温度が断熱の暖房の基本ともいえるもので、非常に重要な要素です。これによって壁より、わずかに二度高い暖房にすればよいのです。したがって、BはAの五分の一の光熱費でよいのです。
なぜこのような差がつくかと言えば、あらゆる物体は十五度を過ぎるぐらいから、遠赤外線を放出するからです。遠赤外線イコール輻射熱です。だから、秋から冬に向けて暖房をはじめる目安になるのが、十五度前後の時であり、十五度を下回ると人は暖房の助けが必要となるのです。
Aで問題なのは光熱費だけでなく、住み心地なのです。湿度が低く、部屋の上下の温度差が大きい。温風が肌を刺し、風邪を引きやすく、治り難い。女性は化粧がのらない。肌が荒れる。アトピーが・・・等々の不満が永久に続く、納屋程度の住まいになってしまうのです。
Bでは湿度がちょうど良く、上下の温度差も少ないため、まあるくしっとりした空気が循環します。ふんわりとした心地よい住み心地を得ることが出来ます。
断熱の、一番の材料と言えば、それは「空気」に他なりません。その空気をたくさん動かないように閉じ込め、なおかつ呼吸をさせる材料、それがセルローズファイバーです。
部屋の断熱が良いと言えるのは、どのような状態かと言えば、それは上下の温度差です。外気温が五度のとき、部屋の天井から三十センチ、床から三十センチで、上下の温度差が五度以内であれば合格です。
多くの場合、十度近くあります。朝六時の室温が十度ぐらいの住まいでは、天井では十四度、床では六度と、八度ほどの違いがあると見てよいでしょう。
Z工法(セルローズファイバー)では、二・五度と夢のような数字が出ています。究極の断熱工法です。真夏に家を締め切って出かけていって、夕方帰ってくると外より「ひやり」と涼しい。これが、「Z工法」の実力です。
Z工法断熱と通常断熱
通常の断熱の材料と言えば、ほとんどがグラスファイバーです。棒状の細いガラス繊維が幾重にも重なり、その間に含まれた空気が断熱材そのものです。だからギューッと押しつぶせば、空気がなくなるので普通のガラスと同じで断熱性はなくなります。
小屋裏
小屋裏は、壁と違って断熱材を自在の厚みに施工することができる場所です。Z工法ではセルローズファイバーを使用しているので、平均三十センチ吹き込んでいます。通常の断熱では、十センチのグラスファイバーを並べているのですが、たとえ二十センチにしたとしても、野縁や天井吊り木、天井換気扇、ダクト、ダウンライト、電気配線などがあり、隙間なくおおうことは不可能に近いでしょう。
外壁
外壁は厚みが決まっている上に、「スジカイ」があるし、「サンギ」もある、間柱の間隔は違うしで、グラスファイバーを潰さないように隙間なく入れることは不可能です。ゼット工法では、間柱の部屋内側に布シートなどの通気シートを張り、セルローズファイバーを適度な硬さ(七㎏/㎡)に吹き込むので、隙間なく施工できるのです。
床
床下断熱は、根太の下をどのように被う事が出来るかによって決まります。ところで、旭化成は、暫らく前までは床下と言えば、ポリスチレン系の「サニーライト」断熱材でしたが、化学を推進するだけでは得策ではないと悟ったのか、グラスファイバーの「Uボート」に全面的に替えました。でも、やはり五センチのものを根太に挟むだけであって、床下断熱は変わりようがないのです。
グラスファイバーの出来ない三菱化学では、発泡スチロールのような「ネダフォーム」を相変わらずお勧めのようですが、根太に挟むのだけは同じです。しかも、どちらも基準の熱還流率(断熱性能の値)には遠く及ばないのですから、不思議中の不思議です。
かと思えば、高価な備長炭を、床下に放り込むと良いというので売り込んでいますが、確かに炭には吸、方湿作用、空気浄化作用、脱臭作用があります。しかし、この場合、床下を密閉しなければ効果はないのではないでしょうか。
この人たちは、床下の完全な施工が出来ないので、ごまかし工法として広げていると思います。そうでなければ何かを売りつけて金を儲けたいだけの亡者です。なによりも、床の断熱にはほとんど関係ないにもかかわらず、素人には炭が断熱に働いていると考えている人があり、そこにつけ込んだ疑問符が何個も並ぶほどおかしな工法があり、ついには、床下に「備長炭」を売り歩く詐欺師事件として、新聞を賑わす者まで現れました。
二階の床下には通常、断熱材は入れません。Z工法では、断熱ももちろんですが、防音のために入れます。いろいろな床下防音材が販売されていますが、これに勝る防音材は一つもありません。
市販の防音材には、ゴム系のもの、鉛系のものなど多く販売されていますが、そのいずれも一から七ミリ程度の厚みのものであり、ほとんど遮音材です。遮音は重さで音を遮音するものであり、市販の遮音材で施工しても重さが足りないので、どうしても所定の結果が得られません。(防音講座参照)
エコロジー断熱
機械的なものを使用しない、自然を利用する断熱をいくつか取り上げたいと思います。
カーテン
どうにも困ってしまうのがカーテンです。どうしてこのように間違ったまま普及したのでしょうか。日本の住まいでこれにあたるのが障子だと思います。しかし、障子はガラスを兼ねていたものであり、夏をむねとする日本の住まいは開けっ放しが多く、太陽の光を遮るのにはすだれを使っていました。
西洋、北欧では厳しい寒さから、カーテンは第二のガラス戸でありました。掃き出し窓の存在しない彼らの高窓のカーテンの作りは、カーテンボックス、もしくはフリルで上に空気が逃げないようにし、下は窓より十センチ以上垂らしている。
振り返ってみると、日本にカーテンが普及するようになって高々三十年余りに過ぎない。目隠しとしてしか機能していない日本のカーテンの作りは、上下に隙間があり空気が自在に出入りする。夏の暖気は上から部屋の中に入り込み、冬の冷気は下から入ります。そして上から部屋の暖気が入り、窓ガラスで冷やされ結露となるのです。
カーテンボックスを付ける。カーテンのすそを少なくても五センチは垂らす。これにより、窓とカーテンの間に動かない空気層を作る。これがなにより大きなカーテンの働きであり、どちらが欠けても駄目なことが理解できるでしょう。
ハウジング雑誌に載っているカーテンは、カーテンポールであり、すそは垂れていません。インテリア・コーディネーターを名乗る人が、堂々とハウス雑誌にこんなものを載せているのだから情けない。間違ったカーテン作りは、今後も延々と続くのでしょうか。
ブラインド
ガラス一枚が壁もかねるオフィスでは、ブラインド無しは考えられない。日射とプライバシーを守るには絶好のものだ。あるお宅に伺ったとき、通常出回っているビニールのブラインドを、窓の外に釘で吊るしていた住まいがありました。
「風は入るし直射日光は遮るし、目隠しになるし小雨では吹き込まないから、こんな重宝なものはありません」確かにそのとおりで、働き者の優れものです。風の強いときは外しておくそうなので、確かな使い方だと思います。
このように外に設置すると、日光の熱が室内に入らないので非常に優れたものですが、室内で使用すると熱が入ってから上か下のどちらかに反射するので駄目なのです。
昔から縁側にすだれを垂らしたり、ヨシズを張ったりしたものですが、考えてみれば、窓の外に吊るしたブラインドは、理にかなった使い方をしていると思います。ブラインドは、窓の外に使用する。暖房時には、断熱には働かないから、夏だけに使用する。これをカーテンと同じように使用するから、間違ったいろいろな問題を引き起こすのです。
畳
畳が庶民一般に普及したのは、米作りが全国に広がった江戸時代になります。畳は断熱、防音、クッション、調湿、空気清浄までもカバーする万能選手です。裸で畳の上でごろ寝をする。なんとも気持ちが良く落ち着くじゃありませんか。その畳ですが、今は「タタミよ、お前もか!」と嘆くばかりのゲテモノに成り下がりつつあります。
最初はタタミの断熱性能を上げるため、床下の湿気を断つため、などといって五十五ミリの厚みのうち二十ミリを化学フォームにした。
断熱性は上がったし湿度にも効果があったから、まずは許せる程度でした。それが調子に乗って、ワラがゼロになるのに時間は掛かりませんでした。表はイグサのゴザですが、中身は全部化学フォームですから、片手で五枚は運べて畳屋さんは楽な稼業となりました。
その代償として防音、クッション、調湿、空気清浄が犠牲になりました。わらが高くなった。わらの畳ではダニがわく。理由はあるにせよ、「そんな畳なら作るな!」と言いたい。
日本びいきの外国人は、畳の部屋の機能的な働きを絶賛していますが、最近の若い人にとっては、青畳のにおいはイヤーな匂いとして感じるそうで、畳がなくなり日本の文化もなくなるのは、時間の問題でしょうか。和室のない住まい、あってもお年寄りの一部屋だけ、そんな住まいが圧倒的に多くなりました。
日本の文化を守れ、畳屋ガンバレ!